初亀醸造株式会社

銘柄酒/「初亀」
日本で18番目に長い歴史を持つ老舗酒蔵
独特な感性で唯一無二の存在感を醸し出す
静岡県の酒造会社の中で最も古い歴史を持つのが、藤枝市岡部町の初亀醸造株式会社です。その創業は寛永13年(1636年)、江戸時代、三代将軍徳川家光の時代まで遡ります。平安時代に創業されたとされると須藤本家(茨城県)には及びませんが、初亀醸造は創業380余年という、日本で18番目に長い歴史を持つ、老舗中の老舗酒蔵です。創業当時は静岡市葵区中町に酒蔵を構え、明治初年に現在の岡部町に蔵を移転しました。長い歴史を持つ初亀醸造ですが、ブランド戦略、品質競争力、販売戦略のどれをとっても、緻密で洗練されたイメージを感じさせてくれます。ここでそのすべてに触れることはできませんが、先ず目を引くのが、ラベルデザインの秀逸さです。モダンクラシックなデザインでベースを統一しながら、歴史や伝統、高級感といったブランドイメージを展開しています。しかも、酒質や価格帯に合わせてデザインの格に差を付けながら、商品ラインナップを構築しています。ラベルデザインにここまでこだわる酒蔵は、県内ではほんの数社に限られます。
400年つづく蔵を守るために必要な
先を見通す力と、今なすべきこと
 自身のブランド性を大切にしていると言うことは、企業として常にレベルアップを目指すことと同義です。「伝統の中に新しい何か」を求めつつも、初亀醸造の芯は決して揺るがせにしない。それは、酒造りに関して言えば、「毎年、必ず美味いお酒を造る」に尽きる訳ですが、良質な酒を造るためには、良質な酒米の確保が必須です。橋本謹嗣社長自ら、岡山県など酒米の特A産地を巡り、酒米の生産者たちと直接会って信頼関係を築き、併せて酒米産地の環境保全活動にも協力しています。2007年、橋本社長から「酒造りは良い米、良い水がなければ成り立たない産業です。環境問題、特に温暖化は酒造会社にとって死活問題です。(酒造会社として)出来ることには取り組まなければなりません」とお聞きしました。今でこそSDGsが盛んに喧伝され、企業トップが環境を語ることは当たり前になりました。しかし十数年前に、具体的な危機感を持って環境問題を語る経営者は、まだ少なかったように思います。こうした先を見通す力も、400年近くつづく蔵を守るために不可欠なのだと感じました。

【蔵元インタビュー】

初亀の酒造りへの想いを感じ取っていただける。
そんな酒造りを目指しています
※2007年のインタビューに用語解説など、加筆修正を加えたものです。
──これまで何度かお会いしておりますが、実は私も岡部町の住人です。

えっ、そうだったのですか。知りませんでしたよ。

──昔、岡部町に引っ越してきたばかりの頃、ある忘年会に、たまたま手元にあった酒を持って行ったんです。これは手に入りにくいお酒ですって。そうしたら皆から、「初亀の旨さを知らないな!」って、すごいブーイングで、随分と怒られました(笑)。

そんなことがあったのですか。うちとしては嬉しいお話ですけど(笑)。

──ええ。ですから初亀さんというと、地元の人に愛されている、岡部町の自慢の酒という印象がすごく強烈で。

そうですか。酒造会社として、岡部町の方にそう思っていただけるのは嬉しいことですね。地元の人に、「岡部には初亀がある!」と誇りをもってもらえる、自慢してもらえる酒が目標のひとつでしたから。

──目標とおっしゃいましたが、昔はそうではなかった?

ええ、うちの酒に限らずですが、昔は灘や伏見といった上方の大手メーカーの酒が本当に強かった。テレビなどでの宣伝も盛んでしたから、地元町内のお使い物にうちの酒を使ってもらえなかったりして、ずいぶんと悔しい思いもしました。でも、その悔しさをエネルギーに変えることで、頑張ってこられたという面もあります。

──昭和40年代の華々しい受賞歴からすると、そんな時期があったとは、ちょっと信じられないお話ですが。

いえ、もともと静岡は、いわゆる「酒どころ」ではなかったのですね。温暖な気候ですから、酒造りには向かないというイメージがとても強かった。特に昭和40年から50年にかけては厳しい時期で、静岡の酒造会社にとって一大転換期になりました。これからは高品質の酒を造らなければ生き残れないと、皆で品質を上げる競い合いが始まって、技術や方法はもちろん、高精白の米、冷蔵貯蔵庫といった施設の改善ですね。もっとも、こうした流れは今でもずっと続いていますので、終わりがないというか。

──そうした競い合いの始まりが、昭和61年の鑑評会での金賞の大量受賞に結びついたわけですね。杜氏の滝上秀三*さんがこちらの蔵に入られたのもその頃ですか?
*滝上秀三氏:能登杜氏。昭和58年(1983)から平成20年(2008)初亀醸造で杜氏を務める。2010年11月に逝去、享年78歳。筆者は滝上杜氏の初亀での最後の造りを取材させていただいたが、蔵内のピンっと張り詰めた空気が今も心に残っています。

昭和58年からです。先代の社長が、「味があって綺麗な酒」を求める中で、能登流の造りに惚れ込んだようです。それで能登杜氏組合*にお願いして、縁あって滝上さんが来てくれることになりました。杜氏はこちらで指名できませんからね。本当に縁なのですよ。
*能登杜氏:社団法人南部杜氏組合(南部杜氏)、新潟県酒造従業員組合連合会(越後杜氏)、但馬杜氏組合(但馬杜氏)に次いでの規模を誇るのが能登杜氏組合(能登杜氏)。この四つの酒造技術者集団をして四大杜氏と称する。能登杜氏は石川県珠洲市周辺の農家や漁師が、能登衆と呼ばれ冬季の酒造りに従事したのが始まり。流派としては能登流と呼ばれる。現在、静岡県内では富士宮市の牧野酒造のみが、能登杜氏組合からの杜氏や蔵人を招いている。また、能登流の造りとしては、土井酒造場が蔵内で能登流の技術を継承している。

──えっ、指名できないのですか。何となく入札制度なのかなぁ・・・と漠然と思っていました。そうなると本当に縁というか、蔵に入られた時期といい、すごい巡り会わせですね。

ええ、そうなのです。杜氏*には初亀のブランドを支えてもらうわけですからね。それに杜氏の仕事は酒を造る技術だけじゃないのですね、蔵人*たちの統率力も必要です。酒造りはチームワークでやっていく仕事ですから、蔵人たちの監督も大切な仕事になります。一旦始まってしまうと、たとえ風邪をひいたとしても、酒造りは休めません。「酒は造るのではなく、生まれるまで育てるものだ。」が、滝上さんの口癖ですから本当に目が離せないですね。
*杜氏・蔵人:杜氏(とうじ)は日本酒の醸造作業を行う職人である蔵人(くらびと)の指揮、監督者であり、製造品質及び管理における最高責任者。杜氏の下には三役と呼ばれる「頭(かしら)」「麹屋(こうじや)」「酛屋(もとや)」といった中間管理職がおり、激務である杜氏の仕事を助けている。

──今回は静岡酵母についてもお話を伺っていますが、造りに神経を使うそうですね。

確かに麹作りにかなり神経を使いますし、発酵中にも非常に細かい温度調節が必要です。そういった意味では、手が掛かります。ただ、静岡酵母*だから手が掛かるというわけではありませんし、酵母だけでいい酒ができるわけでもないのですね。よい材料は大切ですが、それだけではいい酒は絶対にできません。うちは静岡酵母だけじゃなく、協会酵母*も使っています。全国的に酒のレベルが上がっているわけですから、蔵元ごとにいろいろな造りがあって当たり前なのです。我々としては、そうした取り組みや、「酒は造るのではなく、生まれるまで育てるものだ。」という想いが、お客様にすぐ分かっていただけるような酒として、初亀ブランドを確立していきたいと思っています。
*静岡酵母:静岡県工業技術研究所沼津工業技術支援センターの河村伝兵衛氏が研究・開発した静岡県オリジナルの清酒酵母。酢酸イソアミル優勢で、バナナやメロンのような柔らかな果実香が特徴。静岡酵母を使用した出品酒が、昭和60年前後の全国新種鑑評会で優秀な成績を収めたことから、地方自治体による酵母開発競争に拍車がかかったとされる。
*協会酵母:公益財団法人日本醸造協会で頒布している日本酒、焼酎およびワインの酵母菌。正式表記は「きょうかい酵母」。全国新酒鑑評会で高い評価を得た蔵から、優れた蔵付き酵母を採取し純粋培養、「きょうかい酵母」として全国の酒造会社に頒布している。

──材料のお話が出ましたが、こちらの水とお米は。

水は井戸を50m掘って汲み上げています。南アルプスの伏流水です。酒米は兵庫県東条町 (現・兵庫県加東市)の山田錦*。特A産地です。それと、富山県南砺農協の五百万石*にこだわっています。地元産では協力していただいている農家と連携して、雄山錦*と県品種の誉富士*ですね。
*酒米:正式には酒造好適米、酒造りに適した特徴を備えた米の品種。一般的には粒が大きく、麹菌が繁殖しやすい心白があり、低タンパク質で吸水性の良い米が優れた酒米とされる。山田錦が理想的な酒米とあげられるが、それ以外にも五百万石、雄町、美山錦、雄山錦といった有名酒米がある。静岡県オリジナルの誉富士については、誉富士特集ページを参照ください。

──岡部町の広報誌で、岡部酒米研究会と連携されているという記事を読みましたが。

そうです。地元岡部町や焼津市の農家だけでなく、兵庫の東条町の農家と酒造会社が連携した、「フロンティア東条21」という活動にも参加しています。我々酒造会社にとって、良い米をいかに安定的に確保するかは、本当に切実な問題なのです。ですから農家の皆さんと共生していくという取り組みが、今後ますます重要になってくると思います。

──最後に、もうすぐ静岡空港が開港しますが、海外市場などへの取り組みはいかがですか。

いろいろ考えていますが、アメリカ、ヨーロッパの市場に進出していきたいですね。今年(H19年)4月に、ミラノで開催されたミラノサローネに出展した、「TOKYO Bar」に蔵元として参加しました。ミラノサローネは国際的なデザインの祭典なのですが、日本酒の評判はとてもよかったですよ。この「極吟醸瓢月クラシックボトル(2006年度グッドデザイン賞受賞)」*を持っていったのですが、このデザインも好評でした。今、健康食として日本食が海外でブームじゃないですか。それと同じ意味で、健康飲料として、そして日本的な文化として、日本酒を海外の方にも楽しんでもらえたらと思います。
*陶器製のクラシックボトルは、2021年現在販売されておらず、通常のガラスびんでの販売となります。

主要銘柄

品名:
米(精米歩合):
酵母:
日本酒度:
酸度:
品名:
米(精米歩合):
酵母:
日本酒度:
酸度:
会社概要
社 名:初亀醸造株式会社
住 所:藤枝市岡部町岡部744
連絡先:TEL.054-667-2222 FAX.054-667-3170
代表者:橋 本 謹 嗣
杜 氏:八 重 樫次幸(南部)
創 業:寛永12年(1636年)
最寄駅:JR静岡駅からバス中部国道線「岡部北口」下車、徒歩約1分。
見 学:無
https://www.hatsukame.jp/