静岡県オリジナル酒造好適米の改良と新規開発

静岡酵母開発と並ぶトピックと言えば、やはり静岡県オリジナル酒造好適米『誉富士』の開発です。平成10年、静岡県農林技術研究所栽培技術部の宮田祐二主任研究員(当時)によって、ガンマ線を照射した山田錦の種もみ10万粒による、新酒米品種の開発がスタート。これは過去50年で最大規模の個体選抜であり、現在もこの記録は抜かれていません。この気の遠くなるような地道な作業を、宮田さんはたった一人でやり遂げ、後の誉富士となる「静系(酒)88号」を選抜します。平成17年からは農家による現地試作、酒造会社による試験醸造がスタートし、平成21年3月、正式に『誉富士』の品種登録が許可されました。平成10年の開発スタートから、実に11年の歳月を要したことになります。宮田さんは現在、静岡県中東遠農林事務所課長代理として、稲作農家への技術指導にあたっています。10万粒から個体選別をされたご苦労をお聞きしたところ「いやぁ、苦労とは全く思わなかったです。稲を1本1本計測、観察しながら選抜して行くのですが、米の研究者としては至福と言っていい時間、正に研究者冥利に尽きる体験です」日に焼けた顔をほころばせ、楽しそうに話してくれたのがとても印象的でした。
静岡県農林技術研究所 水田農業生産技術科
上席研究員
外山祐介(とやま ゆうすけ)

誉富士を改良した静系97号の米粒。単位面積当たりの収量が良く、心白もしっかり発現しているのが確認できる。

この宮田祐二さんから、誉富士の品種改良、そして、誉富士につづく新たな静岡県オリジナル酒米の開発を託されたのが、静岡県農林技術研究所、上席研究員の外山祐介さんです。「誉富士は酒米の王と呼ばれる山田錦を、台風などでも倒伏しにくい短稈へと改良した品種です。その栽培には高い技術を要することから、米農家からも栽培のしやすい品種への改良が期待されていました」「現在、静系96号、97号という改良品種を試験栽培し、収穫した米による試験醸造が3蔵で行われています。その仕上がりを見極めてから、詰めていきたいと思っています」誉富士の改良も順調に進んでいるようです。実は今日、雄町系の新品種開発の話をお聞きするのを、すごく楽しみにしていました。どういった経緯で、雄町を品種改良しようと思ったのですか?「雄町はとても古い品種で、元々は鳥取の大山(だいせん)でもらい受けた珍しい稲を岡山の雄町で栽培した事から、雄町米と呼ばれるようになったようです。雄町は軟質で粒が大きく、心白も大きいという優れた品種で、山田錦もこの雄町を親に持つ品種です」
「誉富士は山田錦の形質を受け継ぎつつ、短稈化した改良品種です。その上で新しい品種を開発するのであれば、山田錦とは形質が異なる雄町で開発した方が、お酒のバリエーションも広がると考えました」それは確かにおっしゃる通りです。どんな方向性をイメージされていますか?「山田錦は非常に背の高い品種ですが、雄町は更に背の高い長稈品種です。やはりもっと背の低い短稈品種へと改良したいですね。2016年に3万粒の雄町にガンマ線を照射、現在、系統選抜による個体の絞り込みを行っています。短稈化され、単位面積当たりの収量が高く、そして大粒で心白の大きな軟質の酒米。まだ開発の5、6年はかかると思いますが、楽しみながら取り組んで行きたいと思っています」外山さんは利き酒の本格的な勉強や、醸造工程も実地に体験するなど、日本酒の造り手、飲み手を考えながら、品種の開発に取り組んでいます。新品種のお米でどんなお酒が造られるのか、楽しみに待ちたいと思います。
写真奥から誉富士、雄町、山田錦、静系97号。誉富士、静系97号が短棹化された品種であることがよく分かる。