万人に受ける酒より、自分たちが旨いと思える酒を造る。
▲上:手前は瓶詰め工場。その奥には屋根全面にソーラーパネルを敷き詰めた冷蔵倉庫。下:酒造りの過程で出る米の糠を処理する浄化設備。ひと夏かけて水を浄化する。古い建物と近代的な設備が自然の中に違和感なく立ち並ぶ。土井酒造場の環境への配慮が感じられる風景。
──物凄く複雑な計算だと思うのですが、酒造りの設計は社長ご自身がなさるのですか。
そうです。米の選択や酵母、これは昨年一番出来の良かった株を、マイナス80度で冷凍保存してあります。それを無菌室で培養して、新たな酒造りに備える。人間の子どもと同じで、同じ母菌から別れた株でも個性が違いますし・・・。
まあ、いろいろ準備するわけですが、実際に造る段階になれば難しい条件も出てくる訳です。生き物ですからね。そうした時、杜氏の波瀬正吉(故人)*の経験や腕が重要になってきます。状態を見ながら理想とする味、開運の味を目指して仕込んでいきます。
(*)波瀬正吉杜氏は、静岡県の地酒の評価を全国レベルにまで引き上げた多年の功績が認められ、平成19年に静岡県優秀技能者功労表彰を静岡県知事より受けられました。
──波瀬杜氏といえば、能登杜氏四天王のひとりとして有名ですが、この時期は能登にお帰りです。また仕込み時期に、ぜひ取材させてください。
話は変わりますが、雑誌「東京人」2007年2月号の特集、「平成東西燗酒番付」で東の横綱に「開運祝酒」が選ばれました。
あれは前もって取材も連絡もなくて。東京の知人から載っているよと連絡を受けて知りました。静岡では手に入りにくい雑誌ですからね(笑)。
──購入しやすい価格帯の「普段飲みの酒」が横綱に選ばれたのは、全国新酒鑑評会5年連続の金賞受賞とはまた違った喜びではないですか?
そうですね。「開運祝酒」は創業当時からの最も息の長い商品であり、最も出荷量の多い酒です。そういう意味では、まさに土井酒造場を代表する酒です。旨いと評価され横綱に選ばれたのは素直に嬉しいですね。精米歩合60%の特別本醸造ですが、冷でも燗でもどんな飲み方にもしっかりと応えられる酒に仕上げています。
──それでは最後に、今、県ごとに酵母の開発がされるなど、各地で地酒造りが盛んになっていますが、こうした状況をどう思われますか?
先ほども言いましたが、酒の好みは十人十色です。県内産、県外産を問わず、自分の好みに合ったお酒を飲んでいただければいいと思っています。そのことによって、日本酒を飲まれる方が増えてくれれば素晴らしい。ですからライバル関係とかではなく、それぞれが個性のある地酒を造ることが大切だと思います。もちろん私たちも自分が旨い!と思える酒、自信を持ってお薦めできる酒を造り続けていきます。
──本日は、ありがとうございました。
(取材日:2007年7月4日)