甘みとふくらみがパッと出て、キレがいい、静岡らしい味のある酒を造りたい。
▲精米機が並ぶ精米室(上)の向かい側に、洗米・浸漬(しんせき)・蒸しを行うスペース(下)がある。
──ずいぶん思い切った転換をはかられたのですね。新しい造りのお酒について、お客さんからの反応はどうでしたか?
やはり最初は戸惑ったのではないかと思います。でもありがたいことに離れていくお客様は少なかったです。おかげさまで、今では私が継ぐ前より生産量は増えました。
──それは素晴らしいです。どうでしょう、この4年夢中で走ってきたという感じなのでしょうか?
蔵元になって1〜2年は実験室のような感じ。それを繰り返していくうちに淘汰していって、今の味に落ち着きました。味の変革期を通りすぎた感じですかね。
今の酒は全て静岡酵母のNEW-5を使った特定名称酒です。今では、普通酒は造っていません。
──急に耳に入った情報なのですが、今年に入って杜氏さんが倒れられたとか。
そうなんですよ。予想だにしていなかったことでした。蔵人たちはいつものメンバーが揃ったのですが、杜氏が体調を崩し、私も岩手まで会いに行ったり、東京の病院へ連れていったりと、手を尽くしたのですが、無理だという結論になってしまったんです。別の方を呼ぶということも考えたのですが、このチームでやってきて、また新しい人を入れる、というのも・・・。いい調子でやってきたので、それなら・・・ということで、実は今期からは私が杜氏を兼ねることにしました。
──大変なことですね。生身の人間のことですからそういうこともありますよね。でも、社長のご負担を考えてると心配になるのですが。
今までも蔵でやってきたので大丈夫ですよ。蔵人たちとのチームワークもしっかりしてますし。
──そんな時にこんな質問もどうかと思うのですが、これから先の新しい展開は何かお考えですか?
今までに「フルーツと日本酒の会」や、酒屋さんと飲食店の共催で「干物で酒を飲む会」などを開催してきました。この業界はもともと保守的なんですが、生き残りを賭けて、酒のイメージを面白いものに変えていく、これは私たち若手が中心になってやっていかなければならないことと思っています。
──フルーツと合わせるなんて、意表をついていて面白いですね。
この辺り江戸時代は、富士山の雪に見立てて「にごり酒」を売っていたと聞きます。そんなアイデアも面白いと思いますし、今はまだ構想中なんですが、蔵の横にサロンを作ろうと思っているんですよ。板前を呼んで、地の魚や産物を肴に一杯飲めるような場所。一般の人が対象ではなく、あくまでも酒販店さんや飲食店さんを対象にしたものです。つまり勉強会の場ですね。食との新しい調和を考えたり、試したり、意見交換をできる場。それが広がって一般の方に伝わっていけば、大きな力になっていくと思うんですよね。
今、巷でよく聞くスローフードの考え方は、そのいい追い風になってくれるんではないですかね。